サンドバッグもいつかは壊れる

8月18日、私は職場と自宅で過量服用(Over Dose:オーバードーズ=OD)をした。内容量としては、抗不安剤10錠、市販鎮静剤12錠、抗うつ剤4錠。
ブロン1瓶(60ないし80錠)を飲んだとか、そういうレベルではない、あまりに中途半端な量は、別に死にたくて飲んだ訳ではないことの現れかもしれない。なんで飲んだのと言われれば、イライラ感を止めたかったからだ。
また、これは心理検査の結果内容を表している出来事とも言えるかもしれない。少し振り返ってみたいと思う。

現在、私は常勤だが時短勤務のまま15:15に退勤している。同じ科で働く他の非常勤職員は、15:00に退勤している。
時間は恐らく14:40とかそれくらいの頃だったと思う。
週5で働いている非常勤職員は、珍しく連休を取ると言うことで、私に口頭で指示を残そうと何か喋っていた。が、私はその時何故か上の空だった。確か、他の用事も抱えていたかとか、そんな感じだと思う。
そこで外来の電話が鳴って、私が対応した。
コロナ禍で厚労省より適応された電話再診の予約電話だった。弊院は、クリニック規模でもないのに外来看護師が事務的な仕事を受ける機会が多い。
その患者は、ある検査を受けた際に、看護師から「検査結果は後日電話で聞いて、支払いが振込ができるって話なんだけど」と言った。
今まで受けた電話再診でよくあるパターンは、電話再診→次回来院時の前回分と合算で清算していくものばかりで、聞きなれない振込という対応で、まず頭の中が「?」で一杯になった。しかし、後に分かったのだが、ホームページには特に記載していないものの、そういうシステムは弊院にあるそうだ。

話を戻すと、電話再診は決まった書式に情報を聞き取って記入していく。が、その患者は特に薬をもらっていないとの話だった。電話再診は、たいてい症状の安定した患者が処方薬をもらうために受ける事が多い。そこでもまた、いつものパターンではない事に対して「??」となった。
そこで、とりあえず先生に可能かどうか聞いてみようと思い、保留にして、先生に電話を掛けた。
「電話再診で検査結果が聞きたい患者さんがいるのですが、処方薬がない患者さんで、電話再診でもいいですか?」
私はその時、振込の事が伝えられていたかどうか分からない。伝えられていたかもしれないし、抜けていたかもしれない。この辺が、恐らくワーキングメモリーや情報処理能力の低さを表していると思う。通常パターンと違う事に対する混乱に加えて、耳で聞いた情報を保持する力が弱いことと、その情報を正しく処理して瞬時に出力が出来ないのだ。
思えば、電話再診の要項を埋めるだけでなく、患者の言った言葉のメモを取れば良かったのだけど、そのときメモを取れていたかは曖昧だ。

先生は電話越しで独り言をぶつぶつ行ったあと「あーうん、いや。だめだ。急ぎの結果じゃないから来てもらってよ」と私に伝えた。
私はその通りに、患者に電話再診では受けられない事を説明し、予約ダイヤルへのかけ直しを患者に促した。

その後、周囲の先輩に電話の内容と先生の返答、その結末を伝えた。それから「電話再診って振込できるんですか?看護師から案内されたっていわれたんですけど…」と質問した。
2人いた非常勤職員の先輩は、揃って「うん、そうだよ」と答えた。
頭の中の「???」が更に増えて困惑した。同時に、「そんなさも当然知ってるだろうみたいな感覚で言ってくんなよ!振込できるとかしらねーよ!先教えておけよ!申込用紙に該当欄作っておけよ!」と、苛立ちが湧き始めた。が、電話再診申込用紙が挟まっているクリップボードをよくよく見ると、手書きの小さなメモで、振込について問い合わせのあった際の対応が書いてあった。別に書いてなかった訳ではなかったのだ。

そこから、今度は不安におちいった。
処理速度が遅い割に、感情はいつもアクセル全開だ。
振込ができるのであれば、このコロナ禍で来院させるのはどうなのだろうか。だが、検査を説明する当人である先生は来院を促した。私はそもそも先生へ伝達ミスをしたのではないか、患者に訂正の電話を入れて電話再診の手続きをするべきか。次の正しい一手が分からず、とにかく焦った。
それに関して先輩たちと私がやり取りをしていると、件の医師が診察室からひょっこり現れてこう言った。

「あれ、振込っておおやけにやってるわけじゃないでしょ。ホームページにもないし。だから、いいよ。来てもらう対応で。難しく考えちゃだめだよ。それとさ、振込で対応って私の患者さんにはしないでって。師長に問題提起しておいてよ」

おわかりいただけだろうか。フォローからの口頭伝達である。わけも分からないまま、私は必死でメモを取った。
それから、頭の中の整理はついてないものの、15:00には上がりたいであろう先輩から申し送りを聞かねばと思い、「さっきの伝えてもらった用事、もう一度教えてください」と、混乱したままの頭で聞いた。口頭で伝えられた2件の用事を必至で書き留めた。人にモノ頼むならメモ残しておけよ、と今ならその先輩に少し思うし、たぶん今度は言うだろう。

15:00になって先輩が去り、15:15過ぎに私は上がった。更衣室には誰もいなかった。
頭の中は情報と負の感情が処理できず氾濫していた。泣いて喚いて暴れそうだったが、自身のロッカーの戸を凹まない程度にひと殴りする程度に抑えた。職場の物品だから、というのは何とか頭にあった。
それだけでなんとか収めようとしたけど、頭の中はもう既にイライラ感で埋まって頭が爆発しそうだった。アンガーマネジメントなんて言葉があって、怒りはコントロール出来るとか言うけど、あれは理性があってある程度健全な精神だから出来るのではないだろうか、いつも疑問に感じている。ニ次感情といわれる怒り(何かの感情に反応し、その二次的に怒りが湧くという考え方)と、衝動性が高まったイライラ・興奮は何か違うような気がする。

とにかく、その時の私は、何かにもっと当りたいし暴れたいけど我慢しないといけないし、でも頭の中が爆発しそうで何とかしたくて泣きそうになった。
イライラを止めたくて、私はカバンにいつも入れている頓服薬を飲めばいいんだと思った。早く止めたいから、沢山飲めば効くかもしれない。それに、イライラで何にも当たれないなら、自分に当たるしかない。抗不安薬を10錠持っていた。それを職場の更衣室で全部飲んだ。
比較的強めの抗不安薬ではあるらしいが、mg数は多くない事もあり、10錠飲んだからすぐどうにかなる事はなかった。少しだけ頭がぼーっとして、身体が怠くなった。バスと電車は乗れたが、そこから更にバスに乗るのと歩くのが辛くなった。
ODの事は伏せ、いい年で恥ずかしながら母に最寄り駅からの迎えを依頼して帰宅した。
イライラ感は続いて、今度は自宅で過食をした。何を食べたかはもう覚えていないけど、モノを口や喉、胃に詰め込んでるときは無心になれるから、何も考えたくないときのクセになっていた。

翌日、身体の怠さが抜けなかったが、仕事には行かないとと思い、母に職場まで送ってもらおうとした。
だが、母も私の異常さに気が付いていたようだ。「それで仕事できるの?」と聞かれた。「イライラが取れなくて薬多く飲みました」と素直に話した。「死にたくて飲んだわけじゃない」とも。それに対して、なんて返されたかは覚えていない。だけど、休む事を勧められたような覚えはある。

本気で仕事に行くつもりでいたけど、結局休むことにした。イライラ感は昨日よりマシだったが、頭の右端辺りにぐるぐると渦巻いて滞在していた。抗不安薬を飲みきってしまったので、今度は市販の鎮静剤12錠と就眠時の抗うつ剤4錠を飲んだ。それから、職場の副師長(師長が不在だった)に、「ODをして身体が怠いので休みます」と連絡を入れた。馬鹿正直にODしたなんて言って、追いODまでするなんて恥ずかしいやつだな、と後から思った。が、頭の中をどうにかしたくて仕方なかったのだ。

薬の量としては中途半端すぎるため、幻覚だの離脱だの何だのというものはなかった。ただぼんやりと、1日過ごして終わった。最近は調子が良くて、そろそろ新しい仕事を覚えようという矢先でこれだったので、自分の行動にショックを受けていた。

翌日は職場へ行けたが、薬が残っているのか、メンタル面の不調か、少しぼんやりしていた。一昨日先輩から受けた用件のうち、一件は確認が取れた。もう一件については、正直いうと看護師じゃなく医師が把握している内容だろうと思ったこと、誰のカルテか名前やIDかは不明瞭で探せなかった事、また社会人として馬鹿だと思うが、半分は用事を口頭で伝えてきた先輩への八つ当たり的に、抜けた。

その後、かかりつけ医の受診日になり、ODした経緯を話し、イライラ感がすぐ取れるような頓服薬を依頼した。最初は錠剤を提案されたが、病棟でよく不穏時指示薬として使われている液剤の抗精神病薬をお願いした。統合失調症の治療にも使われる薬だ。液剤は吸収が早いので、易怒性や幻覚妄想がひどい患者にはよく飲ませることがあった。あとは、「イライラしたら布団を丸めて殴ってください。布団は壊れませんので」とアドバイスを受けた。

先輩の休み明け、先輩は当然私が用事をやっていると思っていた。まあ、普通なら当たり前だと思う。
だけど、私の状態は普通ではなかった。だから、「1件は確認できましたけど、カルテの件は休んだので分かりません」と、朝から逆ギレしていた。いつも穏やかな先輩も、「それは流石にだめだよ、仕事頼んでるんだから。そんなだと、もう何も頼めないよ」と言ってきた。私は、もはや何を言おうがいい訳だとはおもったが、あの用事を受けた時に混乱していた事と、その日のうちにODしたことを話した。

先輩は、私が安定して仕事していると思っていたそうだ。だけど、私が安定しているのは、安定しているフリをしているからだ。もちろん、本当に調子の良いときもあるし、ここしばらくは本当にそうだった。けど、心も頭も荒波状態で、それを必死に抑えて、体裁を繕っているだけのときもある。父の人工肛門閉鎖の手術も控えていたこともあり、大腸がんの時よりは重くないものの、多少の不安があった。そもそもまず、安定してたら過食なんて自傷行為もどきが常態化していない。過食で翌日具合悪いままに働いていることはよくある。
ODの話のあと、「ごめんね、安定してると思ってました」と先輩に言われた。「新しい仕事も、少し落ち着いてからにしようか」と言われた。だけど、今度はその先輩の顔を見ている事に何だかイライラ感がつのった。迷わず、トイレに行くと言って更衣室に駆け込み、貰ったばかりの抗精神病薬の液剤を1包飲んだ。結果、少ないmgにも関わらず、かなり傾眠(Drowsy:ドロージー、よく病棟では薬が効きすぎてドロドロとか言ってた)になった。
しかも、その日に限って仕事がなさ過ぎる上に、一人で放置される時間も多く、電話もほぼ鳴らず、一つだけあるデスクに突っ伏して眠りそうになってしまった。

ODの件は、その後、師長にも伝わり、色々と聞き取りを受けた。「検査結果なんだから、電話診察より来てもらったほうがいいと思うよ。別に間違ったことしてないと思うわよ、いいんじゃない」と、こんな感じのフォローをされた。それと、予定外だが産業医(ちいかわ先生)とも面談を組むことを勧められた。
ODを公言して大事にしたのは失敗したな、と思った。自分の体調やメンタルのことはどうでもよく、ただ波風を立てないでどうにかやって行きたかったのに。そこまで繕うことは出来なかった。だがちょうど、心理検査の結果も伝えられる日だったので、勧められたとおりに面談を受けた。

面談の日付はODから2週間後くらいだった。その前には、父の入院と手術付き添いもこなした。

ちいかわ先生は、ODの量と経緯を聞き取ると、経緯に対して「ほんとは病院でちゃんと統一しないとアカンことだから、誰先生の患者は〜とか対応言ったらキリないし、あなたが悩む事じゃないんですよ。誰先生のときはこうしろーあーしろーとかな、キリないんよ」と言われた。多分、これもフォローされたのかなと思う。それと、心理検査の結果もここで話をした。(この件は前記事触れているので割愛する)

ちいかわ先生からは名刺を貰っていて、別件の健康問題でメールのやり取りをしたことがあった。ODの件がちいかわ先生の耳に入った時は、ちいかわ先生からメールをくれていたらしく、面談の最後の方に「メール返してくれへんから心配だったんですよ」と言われた。確かに、後から見ると、ODして休んだ頃にメールが届いていたのを見つけて、申し訳ないなと思った。

以上が過量服薬した経緯と、その少し後までの話しだ。
正直言うと、普通の処理能力があれば、普通にこなせたのかなと思うし、こんな始末にならなかっただろう。俯瞰で見ると、自分の行動や思考に突っ込みどころがいっぱいだった。ただ一人で混乱して、自分や周りに暴力的になっているだけのことだった。

まず患者の検査結果と受診の件。これは採血のような数値ではない結果であり、医師も急を要するものではないと話した。電話再診で結果を聞けると言った先輩の案内に対して、私はその事を上手く先生に伝えられず、間違ったことを言って、間違った指示を受けたかもしれない、という恐怖の感情にかなり囚われていた。だけど、看護師として医師の指示には従ったし、後出しではあったが、それでいいよと先生も言った。なので、間違った事をした、という囚われは本来無用だったのではないだろうか。

先生に正しく伝達できていたかどうか。これはもう、患者の言葉をメモして、それを読み上げるしかないと思った。心理士には「耳で聞いたことを信用しないでください」といわれており、それくらいには耳で聞いた情報を正しく保持する力が低いのかなと思う。まして、電話は音声情報のみを一対一の密閉空間でやりとりをしなければならないので、周りが間違いを訂正すると言う事は難しく、自分で何とか正しい情報を捉えなくてはならない。

先輩の用件を受けた件については、時間が迫っている中でも、頭の中を切り替えて冷静な頭で話が聞けなかったのはミスだと思った。これはかかりつけ医にも「今ちょっと頭に違和感あるんですと、周りに伝えてしまっていいと思います」とアドバイスを受けた。
それと、先日発覚した自分の能力と照らし合わせると、やはり用件のメモを先輩自身に書いてもらえるように伝えればよかったとも思う。具体的に、いつ、何を、誰に依頼し、いつまでに、どの状態になればコンプリートか。メモを書けなくても、せめて聞くときにそれらを押さえて用件を受ければ間違いはないのではと思う。今度から、この先輩相手に限らず、そうしていきたい(口頭指示と読めない字をカルテに書くだけの医師には使えない手段だが…)

パニックや混乱からのイライラについては、正直どう対応していいか、未だに分からない。布団は家にしかないから、殴るというのはあまりに限定的だ。本当は、布団の中から出たくないのに仕事に行ってるんだから。メンヘラがリストカット用カッターを持っている理由が少し理解できた。
ただ二次感情のロジックで、イライラを怒りとして扱うならば、私は、自分の思い通りにならなかった事、すなわち通常パターンとは違う電話再診の問い合わせが来た事、振込ができることをレクチャーの時点で教えておいて欲しかったと感じたこと、要件があるならメモを書いて欲しいと感じた等々、他人に対してこうあって欲しいという期待感があった。それと、自分が失敗をして責められるかもしれないという恐怖心もあった。それらの感情が、自分を正当化するための怒りを産んだのでは、と考える事ができる。
だけど、私はそもそもアンガーマネジメントが嫌いだった。ADHD向けアンガーマネジメントの本は読んだこともあるし、あの有名なアドラー心理を元にした嫌われる勇気も読んだ。看護学生時代にアンガーマネジメントの講演も聞いたことがある。だけども、アンガーマネジメントは、怒りをつのらせるお前が悪いと責められているようで、なんとなく受け容れられないでいる。実践できる日はかなり遠いだろう。

ただ、イライラとは別に、パニックや混乱を起こす、というのは、もう能力値+仕事の性質的に、どうにもできないように思う。こちとら生体パーツなので、パソコンのようにcoreの数の増設は簡単には出来ない。ただ、処理速度を上げるパッチとして、投薬治療という方法はある。
あとは自業自得だけど、休職によって奨学金が返済しきれていないという枷のついた††哀しきナイチンゲール††なので、仕事を変えたければお金を払って(本来借りているお金なんだけども)辞めるしかないのが現状だ。60万、別に返せなくはないがなんかムカつく。勤務時間を戻して3ヶ月働けばチャラになる予定もあるのに。その前に出勤拒否起こしそうだけど。

ともかく、半端なODをしたところで、結局いいことはなかった。ただ、自分が思った以上に、己をサンドバッグにしてるような生き方をしてるなーと、すこし俯瞰して思った。思っただけで、繰り返さないとは誰とも約束し難いけど。
ただ、本気でODをしたら、運が良ければ死ぬけど、救急搬送モンの場合は胃洗浄なる苦しい処置を受けるそうだ。自傷の場合は、医療保険が効かない、つまりは全額自費で支払えという事らしいが、そこまでやったことがないので真偽は分からない。
ちなみに、私がODした市販薬の鎮静剤については、もっと大量に飲んで胃の中で餅状にくっついた物が洗浄や粉砕しきれずに成分が効き続けて続けて亡くなった、というような症例のレポートがネットで読める。これを読んだときは、死ぬためのODとはやはり覚悟と気合と量が必要になるなと思った。
まあさ、でもさ。こんな私が言うのもなんだけど、ODとかしても、何も意味ないよ。イライラしたからって自分のこと叩いても、痛いだけ。痛いなって分かっただけで終わったのが、今回の幸いなのかもね。

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